mig (15)


1: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 21:43:02.223 ID:SUQquw3U0
A定食 100円

B定食 100円

C定食 100円

男(社員食堂使ったことなかったけど、ずいぶん安いな!)

男(この新しい職場にもだいぶ慣れてきたし、今日はここで……)

正社員「おい」ガシッ

男「はい?」

正社員「お前は最近この会社に入ってきて、たしか正社員じゃなかったよな?」

男「ええ、そうですが……」

正社員「正社員じゃない奴が社員食堂使うんじゃねえよ!」

男「な、なぜですか!?」

4: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 21:47:01.887 ID:SUQquw3U0
正社員「なぜぇ? 決まってんだろ」

正社員「安くておいしい社員食堂を使えるのは、正社員様だけと決まってるからだよ!」

男「そんなの差別じゃないですか!」

正社員「差別ぅ? いいや、こういうのは区別っていうんだよ」

正社員「分かったら、とっとと外で食ってきな!」ドンッ

男「くっ……!」

男(噂には聞いてたけど、本当にこういうのってあるんだな……)

5: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 21:50:13.770 ID:SUQquw3U0
男「……ってなことがあってさ」

白衣「ふうん」

男「みんな、黙々と夜遅くまで働く、働き者だらけのいい職場なんだけど……」

男「あんな奴がいるとは思わなかった!」

男「お前の勤めてる研究所では、そういうのないのか?」

白衣「特にないな」

男「いいなぁ、理系は」

白衣「理系は関係ないだろ」

男「とにかく、絶対あの社食を使ってみせるぞ!」

8: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 21:53:44.283 ID:SUQquw3U0
次の日――

男(今日こそ……)

正社員「また来たのか、お前」

男「ゲ……」

正社員「昨日、あんだけいったのに、まだ分かんねえのか?」

男「分かりませんよ! なんで俺は使っちゃダメなんですか! 規則があるわけでもないのに!」

正社員「そんな理由、答える必要はねえよ!」

10: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 21:56:40.869 ID:SUQquw3U0
正社員「いいか!」ガシッ

男「ぐ……!」

正社員「俺がいる限り、絶対社員食堂を使わせねえからな!」

男「……!」

正社員「さっさと転職でもした方が身のためだぜ」パッ

男(なんなんだ、この執念……)

男(単に非正規を見下してるとかじゃなく、もっと根の深いものを感じる……)

12: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:00:29.812 ID:SUQquw3U0
さらに次の日――

男「今日こそ!」ダッ

正社員「おーっと、行かせねえよ」バッ

男「なんでだ! なぜ使わせてくれないんだ! 納得いく理由を説明してくれれば大人しく外で食うよ!」

正社員「それは……言えない」

男「ふざけるな! いえないなら、ここでクビ覚悟で大騒ぎしたっていいんだ!」

正社員「……分かったよ。ちょっとこっち来い」

13: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:03:16.955 ID:SUQquw3U0
正社員「どこまで話せるか分からないが……」

男(“どこまで話せるか分からない”……どういう意味だ?)

正社員「ここの社員、みんな黙々と働いてるだろう。どんな無茶な残業も嫌な顔ひとつせずにする」

男「ええ、すごいと思います。こんな職場初めてですよ」

正社員「こんな職場だから……実は過労で倒れてる人も大勢いるんだ。中には死んだ人も……」

男「えっ!?」

正社員「だが、問題になることはない。なぜなら、本人に会社に逆らう気がないからだ」

男「な、なんで……!?」

17: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:05:33.208 ID:SUQquw3U0
正社員「それは……この社員食堂……うっ!」

男「!? ど、どうしました!?」

正社員「やっぱり……ダメなのかよ……」

男「ちょっと! しっかりして下さい!」

正社員「ゲボォッ!」

男「血……!?」

20: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:07:40.434 ID:uEFL6CMm0
正社員お前...!

22: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:09:15.952 ID:SUQquw3U0
正社員「俺はここまで、だ……」

男「正社員さん!」

正社員「食うんじゃねえぞ……」ガクッ

男「……ッ!」

男「誰かっ! 誰か救急車を!」

シーン…

男(おかしいだろ! 仲間が倒れてるのに、誰も見向きもしないなんて!)

23: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:12:54.121 ID:SUQquw3U0
……

男(結局俺が通報して、正社員さんは病院に運ばれた)

男(ICUで手当てを受け、今もなお予断を許さない状況だ)

男(それなのに、会社の仲間は……)



「会社に歯向かうからだ」 「バカな奴……」 「きっと余計なこと口走ったんだろうな」 ヒソヒソ…



男(誰一人として、彼のことを心配しなかった)

男(こうなったら、俺が正社員さんの仇を討つ!)

24: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:15:17.006 ID:SUQquw3U0
次の日、社員食堂にやってきた男。

男(初めて入るけど、キレイな食堂だ……)

男(席はたっぷりあるし、テレビも見られるし、スプリンクラーも完備されてる)

男(だけど、正社員さんは最後に“食うんじゃねえぞ”といってた)

男(きっと、料理の中に“何か”が仕込まれてるに違いない)

男(料理を持ち帰って、あいつに分析してもらえば、何か分かるかもしれない!)

25: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:18:11.314 ID:SUQquw3U0
男(タッパーに入れて……)コソッ

監視員「コラァッ!!!」

男「!」

監視員「ここの料理は持ち帰ることは許さん! 食中毒を起こされても困るからな!」

男「す、すいません……」

男(理由は真っ当だけど、食堂内に監視する人間がいるなんて、やっぱり異常だ……)

26: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:20:14.552 ID:SUQquw3U0
男(だったら……)

男「……」パクッ

男「……」モグモグ

男「……」ゴクッ





監視員(食ったか……これで奴も会社の奴隷だ)ニヤッ

27: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:23:22.528 ID:SUQquw3U0
男「……」

男(この飲み込んだ食べ物を……)

男(胃袋に落とさず、食道にとどめる!)

男(これはキツイ! キツイぞ!)

男(早くトイレに駆け込まなきゃ!)タタタッ



男「オエッ!」

男「はぁ、はぁ、はぁ……」

男(よし……これを持ち帰れば……!)

29: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:27:06.955 ID:SUQquw3U0
白衣「なんだこれ?」

男「俺の勤めてる会社の社食だ」

男「こいつを分析して、なにが混入されてるか調べてくれないか? 理系なんだから出来るだろ?」

白衣「お前は理系をなんだと思ってるんだよ」

男「できないのか?」

白衣「できるけどさ。仕方ないな……やってやるよ」

男「恩に着る!」

31: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:30:32.598 ID:SUQquw3U0
数日後――

白衣「ふぅ、研究所の機材を勝手に使うのも骨が折れたぜ」

男「どうだった?」

白衣「とんでもないモンが検出されたよ」

男「えっ……」

白衣「お前の持ってきた食物に入ってたのは――」

白衣「“シタガーウ”って薬品だ」

男「シタガーウ……!?」

34: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:33:09.153 ID:YGytaIDGF
ちょっと好き

35: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:34:07.892 ID:WEbqv9hH0
し、シタガ……なに?

36: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:34:30.401 ID:SUQquw3U0
男「名前だけじゃどんな薬か見当もつかないが、一体どんな薬品なんだ?」

白衣「恐ろしい薬だ」

白衣「まず、摂取した人間は、頭がぼんやりして上から言われたことをよく聞くようになる」

白衣「たとえば、命令に従順な兵士を造るのにうってつけだ」

白衣「しかも、自然排出されることなく、体内にどんどん蓄積される」

白衣「少しでも食べたらもうアウト。効果は永続してしまう」

男「じゃあ、長年社員食堂を使い続ければ……」

白衣「どんな無茶な残業も平然とこなす、奴隷のような社員が出来上がるだろうな」

白衣「だが、このシタガーウの一番恐ろしいところは……」

男「……」ゴクッ

40: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:38:39.985 ID:SUQquw3U0
白衣「摂取した人間が強い反抗心を示した時、強力な毒素を出すんだ」

男「毒素を……!?」

白衣「その反抗心が強ければ強いほど、体に強い異変が起き――最悪の場合死ぬ」

男「じゃあ、正社員さんは……」

白衣「お前に社員食堂の秘密を教えようとして、その時湧き出た反抗心のせいで……」

男「正社員さん……!」

男(おそらく、会社の人はみんな、既に自分たちがどんな体になってるか察してるんだろう)

男(だから、もはや会社に対して反抗するつもりなんかない。反抗したら死ぬかもしれないんだから)

男(だけど、正社員さんだけは強靭な意志力でどうにか自我を保ち――)

男(新しく入社した俺に、社員食堂は絶対使うなと、ギリギリの警告をしてくれてたんだ!)

43: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:39:27.816 ID:FDl13ajP0
正社員さん🥺

51: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:42:45.139 ID:SUQquw3U0
男「これ、警察に訴えられないかな?」

白衣「証拠はお前の持ってきたあの食い物だけだし、厳しいだろうな」

白衣「それにこんなことする会社が、警察とかに手を回してないとは思えない」

白衣「お前一人騒いだところで……」

男「握り潰されるのがオチってところか……」

男「だったら……シタガーウを解毒する方法ってないのか? 理系なんだから知ってるだろ?」

白衣「お前は理系をなんだと思ってるんだよ」

男「無理なのか……」

白衣「いや……一つだけある」

男「あるのかよ!」

55: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:43:57.299 ID:uEFL6CMm0
理系ってすげえな

57: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:45:15.812 ID:we1TJ8pK0
流石は理系

59: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:45:44.367 ID:SUQquw3U0
白衣「“サカラーウ”という薬品がある」

男「サカラーウ……!」

白衣「これを少量でも飲ませれば、シタガーウの効果をたちまち打ち消すことができるはずだ」

男「それ、なんとか入手できないかな? 理系だし、できるだろ?」

白衣「お前は理系をドラえもんかなんかだと思ってるのか? まあ、できるけど」

男「できるのかよ!」

66: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:48:56.983 ID:SUQquw3U0
数日後――

白衣「これが……サカラーウだ。わずかだが、なんとか入手できた」

男「ありがとう!」

白衣「だが、社員たちに、これをどうやって飲ませるんだ?」

白衣「たとえば『これを飲めば会社に逆らえるようになるぞ』なんていって飲ませようとしたら」

白衣「それこそ、シタガーウの効果で社員たちの命が危なくなるぞ」

男「……」

男「それについては考えがある」

白衣「ま、俺に出来るのはここまでだ。上手くいったら、エタノールの入った液体でも奢れよ」

男「ああ、もちろんだ!」

69: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:51:30.553 ID:SUQquw3U0
会社――

男(そろそろ昼か……)

男(会社に従順な社員たちは、12時にならなきゃ社員食堂に向かわないだろうな)

男(だから一足早く、俺が社員食堂の厨房に忍び込む!)

サササッ

70: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:54:33.543 ID:SUQquw3U0
コソコソ…

男(すでに料理は出来上がっているな……)

男(いつもこの中にシタガーウを混ぜているんだろう……)

監視員「何をしている!」

男「!?」

監視員「おや? 誰かと思えば、この間の男じゃないか」

監視員「調理師でもないのに、厨房に忍び込んで、何をしているんだ?」

男「あ、いや、これは……」

72: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 22:57:51.118 ID:SUQquw3U0
監視員「狙いは分かっている。おおかた、料理にサカラーウを混ぜに来たってところだろう?」

男「なぜ、それを……!」

監視員「分かるさ。今までにも、お前のような輩は何人もいたからな」

監視員「だが、全て捕えて、シタガーウ漬けにしてやった。そうなればもう過労死するまで働く」

監視員「お前も奴らと同じ運命をたどるのだ」

ゾロゾロ…

男(いっぱい集まってきた……!)

73: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 23:00:36.095 ID:SUQquw3U0
監視員「さあ、覚悟しろ……!」

男「……」

男「一ついっておく。俺は料理にサカラーウを混ぜるつもりなんてないぞ」

監視員「なに……?」

男「俺がこの厨房に忍び込んだのはな……火が欲しかっただけだ!」メラメラ…

監視員(こいつ、自分の服に火をつけた!? なに考えてやがる!)

男(この服を……食堂に投げる!)ポイッ

監視員「ハァ!?」

74: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 23:03:25.930 ID:SUQquw3U0
メラメラメラ… モクモクモク…



監視員「? まさか、会社に火をつけるつもりか?」

監視員「だが、食堂にはスプリンクラーも完備してあるんだよ! あの程度ならすぐ鎮火する!」

男「そうだよ……それでいいんだ」

監視員「は?」



ブシャアアアアアアアアアアアアッ!!!



男「みんな、飲めーっ!!!」

76: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 23:07:18.430 ID:SUQquw3U0
ブシャアアアアアアアアアア…

社員A「飲め……? とりあえず飲むか……」

社員B「いただきます……」

社員C「飲もう……」ゴクッ

ゴクッ… ゴクッ ゴクッ

「あれ!?」 「なんだか、頭が冴えてきて……」 「会社に対する反抗心がメラメラと……!」



監視員「貴様、まさか!?」

男「そうだよ……。俺がサカラーウを混ぜたのは……スプリンクラーの水だ!」

監視員「な、なんだとっ!?」

77: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 23:09:40.370 ID:XmbGWpaKr
なるほど

78: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 23:12:43.795 ID:SUQquw3U0
男「みんな! 今のみんなは、もう会社に逆らえる!」

男「革命を起こすんだ!」



「今までのお返しだ!」 「監視員を捕まえろ!」 「過労で倒れた仲間の仇だ!」



監視員「わ、わわっ! ま、まずいっ! 応援を――」



ワアァァァァァ……! ウオォォォォォ……!



社員食堂は怒れる社員たちによって、瞬く間に制圧された。

79: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 23:16:42.398 ID:SUQquw3U0
これをきっかけに、会社のシタガーウ使用は白日の下に晒され、

逮捕者も出て、上層部は総退陣となった。



後任には、能力があり、下からの信任も厚い人間が選ばれ、全ては事なきを得た――



男「これもお前のおかげだ。本当にありがとう」トクトク…

白衣「ふん、研究のついでの暇潰しだ」

男「それにしても、ビーカーで酒飲むのやめろよ」

白衣「俺は理系だからな」グビッ

80: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 23:19:39.689 ID:SUQquw3U0
男「退院おめでとうございます」

正社員「ありがとう」

正社員「まさか俺が倒れてる間に、会社を革命しちまうなんてな……」

男「あなたが俺に社員食堂を使わせなかったおかげですよ」

正社員「だとしたら、生死の境をさまよったかいがあったってもんだ」

男「会社も変わりました。シタガーウを使ってた頃より、業績も伸びてますよ」

正社員「洗脳された従順な兵隊を作るより、のびのび働かせた方が生産性は上がるってことだな」

82: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 23:22:38.557 ID:SUQquw3U0
男「それと俺も、今度正社員にしてもらえることになったんです!」

正社員「よかったじゃないか」

男「ありがとうございます!」

正社員「よし、今日は前祝いに一緒に社員食堂でご飯食べよう!」

男「はいっ!」






― 完 ―

83: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 23:24:28.288 ID:uEFL6CMm0

85: 風吹けば名無し 2020/02/17(月) 23:26:17.763 ID:XmbGWpaKr

面白かった

引用元: http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1581943382/