1: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 21:30:31.006 ID:3gltyj0Z0
男「あそこのフードコートでメシ食ってる家族連れ見てると――」
夫「ほら、ラーメンだぞ」
妻「熱いからフーフーしてね」
子「うん!」フーフー
男「涙が止まらなくなるよな。家族でフードコートって……」
女「なにそれ、もっといいレストラン行けよ的な意味? 趣味悪……」
男「……」ポロッ
女「え?」
男「……」ボロボロ
女「ちょっと……泣きすぎじゃない!?」
夫「ほら、ラーメンだぞ」
妻「熱いからフーフーしてね」
子「うん!」フーフー
男「涙が止まらなくなるよな。家族でフードコートって……」
女「なにそれ、もっといいレストラン行けよ的な意味? 趣味悪……」
男「……」ポロッ
女「え?」
男「……」ボロボロ
女「ちょっと……泣きすぎじゃない!?」
5: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 21:33:41.221 ID:3gltyj0Z0
女「どうしちゃったの……はい、ハンカチ」
男「悪い……」ゴシゴシ
女「どうしたの? なんで泣いたの?」
男「気になる?」
女「そりゃ気になるって」
男「分かった……全てを話そう」
…………
……
男「悪い……」ゴシゴシ
女「どうしたの? なんで泣いたの?」
男「気になる?」
女「そりゃ気になるって」
男「分かった……全てを話そう」
…………
……
8: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 21:36:27.998 ID:3gltyj0Z0
およそ20年前――
兄「そらっ!」ヒューンッ
弟「よっ」パシッ
兄「ナイスキャッチ!」
兄「もう日も暮れるし……キャッチボールはこの辺にしよう」
弟「うん、分かった!」
兄「じゃあ……帰ろうか……」
弟「うん……」
兄「そらっ!」ヒューンッ
弟「よっ」パシッ
兄「ナイスキャッチ!」
兄「もう日も暮れるし……キャッチボールはこの辺にしよう」
弟「うん、分かった!」
兄「じゃあ……帰ろうか……」
弟「うん……」
10: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 21:39:25.395 ID:3gltyj0Z0
兄「ただい……」
母「どこほっつき歩いてたの、まったくぅ!」
バシッ! ビシッ! バシィッ!
兄「いだっ! いたいっ!」
弟「いたいよ……」
父「ガキ二匹でビービーわめいてんじゃねえ! うるっせえな!」
ドカッ! バキッ! ガッ!
兄「あぐっ! やめてよっ……!」
弟「うわぁん……!」
母「どこほっつき歩いてたの、まったくぅ!」
バシッ! ビシッ! バシィッ!
兄「いだっ! いたいっ!」
弟「いたいよ……」
父「ガキ二匹でビービーわめいてんじゃねえ! うるっせえな!」
ドカッ! バキッ! ガッ!
兄「あぐっ! やめてよっ……!」
弟「うわぁん……!」
12: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 21:42:18.468 ID:3gltyj0Z0
兄「……大丈夫か?」
弟「……うん」
兄「父さんも母さんも……何かあるとすぐぼくらを殴って……」
弟「ひどいよね……」
兄「もっと大きくなったら、二人でこんな家出ていこう!」
弟「……そうだね、兄ちゃん!」
弟「……うん」
兄「父さんも母さんも……何かあるとすぐぼくらを殴って……」
弟「ひどいよね……」
兄「もっと大きくなったら、二人でこんな家出ていこう!」
弟「……そうだね、兄ちゃん!」
14: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 21:45:30.591 ID:3gltyj0Z0
ある日――
叔父「やぁ、お久しぶり」
叔母「こんにちは」
兄「こんにちは!」
弟「こんにちはー!」
叔父「ほら、おこづかいだ」
兄「ありがとう!」
兄(おじさんの夫婦は、ぼくらの親とちがってすごく優しい……)
叔父「やぁ、お久しぶり」
叔母「こんにちは」
兄「こんにちは!」
弟「こんにちはー!」
叔父「ほら、おこづかいだ」
兄「ありがとう!」
兄(おじさんの夫婦は、ぼくらの親とちがってすごく優しい……)
16: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 21:48:23.120 ID:3gltyj0Z0
叔父「兄さん、前いった話、考えてくれたかい?」
父「ああん? うちのガキのどっちかを養子に欲しいって話か」
叔父「ああ、うちは子供がいないし、兄さんも大変だろうし……」
父「まあな。いつもやかましいし、どっちか消えればちょうどいいや!」
叔父「だったら……」
兄「……!」
兄(ぼくと弟のどっちかだけは、この地獄から抜け出せる……)
父「ああん? うちのガキのどっちかを養子に欲しいって話か」
叔父「ああ、うちは子供がいないし、兄さんも大変だろうし……」
父「まあな。いつもやかましいし、どっちか消えればちょうどいいや!」
叔父「だったら……」
兄「……!」
兄(ぼくと弟のどっちかだけは、この地獄から抜け出せる……)
17: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 21:52:00.080 ID:3gltyj0Z0
叔父「兄さん夫婦はOKだそうだ。どっちを引き取る?」
叔母「やっぱり弟君じゃない?」
叔父「そうだなぁ、兄さんも長男は手元に残したいだろうしな」
叔母「私もそう思うわ」
兄(このままじゃ、弟が選ばれてしまう……!)
兄(つまり、この家に残されるのはぼく……!)
叔母「やっぱり弟君じゃない?」
叔父「そうだなぁ、兄さんも長男は手元に残したいだろうしな」
叔母「私もそう思うわ」
兄(このままじゃ、弟が選ばれてしまう……!)
兄(つまり、この家に残されるのはぼく……!)
18: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 21:55:14.306 ID:3gltyj0Z0
叔父「お、二人でボール遊びしてるのか!」
兄「うん!」
兄「ところで、お前はいっつもおねしょばかりでホント大変だよな!」
弟「え……?」
兄「算数もろくにできないしさ、すぐ物を壊すし、泣くし、暴れるし……」
弟「……?」
兄「なぁ、そうだろ?」
弟「う、うん!」
叔父「……」
兄「うん!」
兄「ところで、お前はいっつもおねしょばかりでホント大変だよな!」
弟「え……?」
兄「算数もろくにできないしさ、すぐ物を壊すし、泣くし、暴れるし……」
弟「……?」
兄「なぁ、そうだろ?」
弟「う、うん!」
叔父「……」
21: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 21:58:33.755 ID:3gltyj0Z0
父「で、どっちにするんだ?」
叔父「兄君を引き取らせてくれるかい?」
父「いいぜ」
母「その代わりお金の方は……」
叔父「ええ、大切な我が子を譲って頂くんです。それなりの謝礼は……」
母「ありがとうございますぅ~!」
叔父「兄君を引き取らせてくれるかい?」
父「いいぜ」
母「その代わりお金の方は……」
叔父「ええ、大切な我が子を譲って頂くんです。それなりの謝礼は……」
母「ありがとうございますぅ~!」
22: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:01:20.396 ID:3gltyj0Z0
兄「じゃあ……元気でな」
弟「うん……」
兄「これからは一人になっちゃうけど、しっかりやるんだぞ!」
弟「大丈夫だよ、兄ちゃん」
叔父「それじゃ、行こうか」
叔母「今日からは私たちが両親よ」
兄「はいっ!」
ブロロロロロ…
弟「うん……」
兄「これからは一人になっちゃうけど、しっかりやるんだぞ!」
弟「大丈夫だよ、兄ちゃん」
叔父「それじゃ、行こうか」
叔母「今日からは私たちが両親よ」
兄「はいっ!」
ブロロロロロ…
23: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:04:33.549 ID:3gltyj0Z0
その後、兄は何不自由ない生活を送る――
叔父「ほーら、クリスマスプレゼントだ!」
兄「クリスマスに何かもらうなんて生まれて初めて!」
叔父「ハハハ、そうかそうか」
しかし――
兄「……」
兄(弟はどうしてるんだろう……)
叔父「ほーら、クリスマスプレゼントだ!」
兄「クリスマスに何かもらうなんて生まれて初めて!」
叔父「ハハハ、そうかそうか」
しかし――
兄「……」
兄(弟はどうしてるんだろう……)
24: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:08:34.433 ID:3gltyj0Z0
家に戻ると――
兄「家が……なくなってる!?」
兄「あ、あのっ! おばさん!」
隣人「おや、久しぶりだね。どうしたんだい?」
兄「弟たちがどうなったか知りませんか!?」
隣人「たしか……お父さんがものすごい借金をこさえちゃって……悪い人たちと揉めて……」
隣人「夜逃げみたいな形で逃げちゃったってのは聞いてるけど……」
兄「夜逃げ……!」
兄「家が……なくなってる!?」
兄「あ、あのっ! おばさん!」
隣人「おや、久しぶりだね。どうしたんだい?」
兄「弟たちがどうなったか知りませんか!?」
隣人「たしか……お父さんがものすごい借金をこさえちゃって……悪い人たちと揉めて……」
隣人「夜逃げみたいな形で逃げちゃったってのは聞いてるけど……」
兄「夜逃げ……!」
25: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:11:40.958 ID:3gltyj0Z0
兄「弟は……! 弟はどうなったか分かりませんか!?」
隣人「さぁ……」
隣人「ただ、あの様子じゃ、とてもまともに子育てできると思えないし……」
隣人「どこか施設にでも入ることになってればいいんだけど……」
兄「……!」
兄(あんな親は生きようが死のうがどうでもいい……。だけど、弟は……弟は……)
兄(弟はどこ行っちゃったんだ……!)
隣人「さぁ……」
隣人「ただ、あの様子じゃ、とてもまともに子育てできると思えないし……」
隣人「どこか施設にでも入ることになってればいいんだけど……」
兄「……!」
兄(あんな親は生きようが死のうがどうでもいい……。だけど、弟は……弟は……)
兄(弟はどこ行っちゃったんだ……!)
27: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:16:35.841 ID:3gltyj0Z0
やがて、兄は大学を卒業し、社会人となり――
兄「依頼をしたいのですが……」
探偵「人捜しをしたいとのことでしたね? どなたを?」
兄「俺の……弟です。子供の頃に生き別れた……」
兄「自分では無理だったので、こうしてプロにお願いしようと……」
…………
……
兄「依頼をしたいのですが……」
探偵「人捜しをしたいとのことでしたね? どなたを?」
兄「俺の……弟です。子供の頃に生き別れた……」
兄「自分では無理だったので、こうしてプロにお願いしようと……」
…………
……
28: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:20:05.765 ID:3gltyj0Z0
男「……ってわけだ。もちろん、兄は俺だ」
女「そんな過去があったなんて……」
女「それで? 弟さんは見つかったの?」
男「見つかったよ」
女「よかった、生きてたんだ! で、どこにいるの?」
男「あそこで家族連れてラーメン食ってるよ」
女「えっ!?」
女「そんな過去があったなんて……」
女「それで? 弟さんは見つかったの?」
男「見つかったよ」
女「よかった、生きてたんだ! で、どこにいるの?」
男「あそこで家族連れてラーメン食ってるよ」
女「えっ!?」
30: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:23:37.270 ID:3gltyj0Z0
女「あれ……弟さんなの!?」
男「ああ……」
女「それで、もう再会したの?」
男「しないよ。こうして遠くから見てるだけさ」
女「どうして……!」
男「今更会えるわけないだろ。俺は嘘までついてあいつを見捨てた、最低のクズ兄貴なんだからよ……」
女「向こうは会いたがってるかも……」
男「ありえねえよ、そんなの!」
男「ああ……」
女「それで、もう再会したの?」
男「しないよ。こうして遠くから見てるだけさ」
女「どうして……!」
男「今更会えるわけないだろ。俺は嘘までついてあいつを見捨てた、最低のクズ兄貴なんだからよ……」
女「向こうは会いたがってるかも……」
男「ありえねえよ、そんなの!」
31: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:26:47.500 ID:3gltyj0Z0
店員「そんなことは……ないと思うぜ」
男「!?」
女「フードコートの店員さん……?」
店員「あの家族はよく来るが、あの人はあんたを恨むような人じゃねえ」
店員「涙を流したら、塩分が不足してるだろう。こいつはおごりだ。食いねえ」ゴトッ
男(塩ラーメン……)
男「ありがとうございます!」ズルルッ ズズッ
男「よ、よし……食ったら勇気が湧いてきた」
男「!?」
女「フードコートの店員さん……?」
店員「あの家族はよく来るが、あの人はあんたを恨むような人じゃねえ」
店員「涙を流したら、塩分が不足してるだろう。こいつはおごりだ。食いねえ」ゴトッ
男(塩ラーメン……)
男「ありがとうございます!」ズルルッ ズズッ
男「よ、よし……食ったら勇気が湧いてきた」
34: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:31:02.083 ID:3gltyj0Z0
子「あー、おいしかった!」
妻「よく食べたわねえ」
夫「よしよし」
男「……」スタスタ
男「あ、あの……」
夫「はい?」
夫「――ッ!」
夫「兄ちゃん!? もしかして兄ちゃんか!?」
男「!」
妻「よく食べたわねえ」
夫「よしよし」
男「……」スタスタ
男「あ、あの……」
夫「はい?」
夫「――ッ!」
夫「兄ちゃん!? もしかして兄ちゃんか!?」
男「!」
35: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:34:36.733 ID:3gltyj0Z0
夫「やっぱりそうだ、兄ちゃんだ!」
男「お前どうして、すぐに俺だって……」
夫「だってずっと会いたかったんだもん! だけど兄ちゃんの幸せ壊しちゃいけないと思って……」
男「お前……!」
男「俺は……俺はずっと謝りたくて……! あの時ウソをついて……!」
夫「いいんだよ、兄ちゃん。俺は兄ちゃんにはもっといい暮らししてもらいたいと思ってた」
夫「だから、あの時も……」
男「全て分かってて、俺のウソを否定しなかったのか……」
夫「……うん」
男「ううう……すまんっ! すまんっ! こんな出来た弟を俺は……ッ!」
男「お前どうして、すぐに俺だって……」
夫「だってずっと会いたかったんだもん! だけど兄ちゃんの幸せ壊しちゃいけないと思って……」
男「お前……!」
男「俺は……俺はずっと謝りたくて……! あの時ウソをついて……!」
夫「いいんだよ、兄ちゃん。俺は兄ちゃんにはもっといい暮らししてもらいたいと思ってた」
夫「だから、あの時も……」
男「全て分かってて、俺のウソを否定しなかったのか……」
夫「……うん」
男「ううう……すまんっ! すまんっ! こんな出来た弟を俺は……ッ!」
36: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:37:19.185 ID:3gltyj0Z0
男「結婚して子供までできて、楽しく食事して……。元気そうでよかった……!」
夫「兄ちゃんこそ……!」
子「……」キョトン
妻「これはいったい……?」
女「えーと、詳しくはあとで説明しますんで」
夫「兄ちゃんこそ……!」
子「……」キョトン
妻「これはいったい……?」
女「えーと、詳しくはあとで説明しますんで」
37: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:40:50.325 ID:3gltyj0Z0
夫「兄ちゃん、メシ食った?」
男「実はさっき食べちゃったけど……久しぶりにお前とメシ食いたいな」
夫「俺もだよ!」
店員「だったらサイドメニューはどうだい? おつまみぐらい食えるだろ」
男「それなら食べれそうだ」
夫「じゃあお金は二人で……」
男「そうだな」
子「ぼくも食べるー!」
妻「コラコラ、邪魔しないの」
女(よかったね……)
男「実はさっき食べちゃったけど……久しぶりにお前とメシ食いたいな」
夫「俺もだよ!」
店員「だったらサイドメニューはどうだい? おつまみぐらい食えるだろ」
男「それなら食べれそうだ」
夫「じゃあお金は二人で……」
男「そうだな」
子「ぼくも食べるー!」
妻「コラコラ、邪魔しないの」
女(よかったね……)
39: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:43:25.836 ID:3gltyj0Z0
男「こうやって兄弟でメシ食うの……久しぶりだな」
夫「うん……!」
モグモグ… パクパク…
客(なんであそこの二人、フードコートで涙流しながらメシ食ってんだろ……?)
― 終 ―
夫「うん……!」
モグモグ… パクパク…
客(なんであそこの二人、フードコートで涙流しながらメシ食ってんだろ……?)
― 終 ―
40: 風吹けば名無し 2020/11/02(月) 22:44:06.801 ID:Az23AwMl0
乙
面白かった
面白かった
引用元: https://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1604320231/
まで読んだ
sukenokiv
がしました