1: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:11:02.980 ID:EAIlGR+/0
上司「おい、今日中にこれやっとけ!」

部下「え……もう終業時間をとっくに過ぎてますけど」

上司「んなもん関係あるか! 会社のためだ!」

部下「昔はこんなに厳しくなかったのに……」

上司「なにをゴチャゴチャいってる! とっとと取りかかれ!」

部下「はい……ううっ!」ドサッ…

上司「ん?」

シーン…

上司「死んでる……」

2: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:15:15.868 ID:EAIlGR+/0
上司(脈がない、呼吸もしていない。本当に死んでるようだ)

上司(くそっ、なんて軟弱な奴だ!)

上司(しかし、通報するわけにはいかない。過労死を出したなんて世間に知れたら、会社の名に傷がつく)

上司(だが、問題ない。私はこういう時のために、これを持っているのだ)

上司(“死体をゾンビ化させる薬”を……!)

上司(これを部下に垂らせば……)ピチョン

3: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:18:23.237 ID:EAIlGR+/0
部下「……」ムクッ

上司「おおっ!」

部下「……」

上司「本当に蘇った……」

上司(え、と……注意書きを読んでみるか)

上司(ゾンビは疲れない、眠らなくていい、痛みを感じない……サラリーマンにぴったりだ)

上司(食事は可能だが、別に食べなくてもいい。ふむふむ、なるほど)

上司(最後の一文は……)

上司(ゾンビはゾンビ化させた者の命令通り動く――ただし、“大量の塩を浴びると支配から離れてしまう”)

上司(最後のは特に気をつけないとな。よし……)

4: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:21:45.293 ID:EAIlGR+/0
上司「部下よ、声は届いてるか」

部下「はい……」

上司「怪しまれても困るし、基本的には今まで通り生活していいが、私のいうことは絶対聞け」

部下「はい……」

上司「なにより会社のために尽くせ。自分より会社を優先しろ。どうせもう死んでるんだ」

部下「分かりました……」

上司「よし、ではさっきの仕事を続けろ」

部下「はい……」

上司(これで本当に大丈夫なんだろうか……)

5: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:24:28.175 ID:EAIlGR+/0
上司「ただいまー」

妻「お帰りなさい。遅かったわね」

上司「まあね」

上司(なにしろ部下をゾンビ化させなきゃいけないぐらい忙しかったからな)

……

上司「ごちそうさま」

妻「あら、もういいの? このところ食が細くなったわね」

上司「ああ、すまない」

上司(明日からのことを考えると……食も進まないよ)

6: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:26:15.333 ID:EAIlGR+/0
次の日――

部下「おはようございます」

上司「おはよう」

上司(今日は部下がどれぐらい働けるか試さないとな)

上司「おいっ!」

部下「はい」

上司「これやっとけ! 終わるまでメシも食うな! 分かったな!」

部下「分かりました」

8: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:29:36.975 ID:EAIlGR+/0
昼休みになる。

キーンコーン…

同僚「やっと昼だー、メシ行かねえ?」

部下「いや……俺はいい」

同僚「ちゃんと食った方がいいぞー?」

部下「いや……いい」

同僚「ふうん。あ、メシどうです?」

上司「私もいいよ。かまわず食べてくれ」

上司(ちゃんと命令に従うか、見張ってねばならんからな)

部下「……」バリバリ

9: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:32:07.410 ID:EAIlGR+/0
部下「……」セッセッ

部下「……」サッサッ

部下「……」バリバリ

上司(おお、本当に黙々と働いてる)

上司「メシ食わなくてもいいのか?」

部下「はい、問題ありません」

上司(素晴らしい効果だ……!)

10: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:35:11.156 ID:EAIlGR+/0
部下「終わりました」

上司「うむ、ご苦労」

上司(ゾンビ化で仕事に集中できるようになったのか、仕事も前より正確になってる)

上司(ちゃんと働くか不安だったが、どうやら取り越し苦労だったようだな)

上司(そうと決まれば、前以上……いや生前以上にバリバリ働かせるのみだ!)

上司「追加でこの仕事も頼む。終わるまで退社することは許さん」

部下「分かりました」

11: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:38:13.173 ID:EAIlGR+/0
上司「これやっとけ!」

部下「はい」



上司「これ頼むぞ」

部下「分かりました」



上司「明日までにだ」

部下「必ずやります」



上司(どんなに無理な仕事を頼んでも、嫌な顔一つせずやってくれる)

上司(私は最高の部下を手に入れた! これでますます会社に貢献できる!)

12: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:41:33.317 ID:EAIlGR+/0
ある日――

コンコン…

上司「失礼します」

社長「うむ」

社長「君の部署が、最近めざましい成績を上げていると聞いてね」

上司「ありがとうございます」

上司(なにしろウチの部署にはゾンビがいるからな)

社長「さて、君を呼び出した件だが……」

14: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:44:50.420 ID:EAIlGR+/0
……

上司「これはかなり大きなプロジェクトですね」

社長「うむ、この社運がかかったプロジェクトを……君に任せたい」

上司「わ、私に!?」

社長「君ならば出来る、やってくれると確信している」

上司「……!」

上司(社長にこう言われたら、やるしかないじゃないか!)

上司(問題は期間が短すぎるということだが……ウチには“あいつ”がいる!)

上司「やります、やらせて下さい!」

社長「うむ、頼んだぞ」

16: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:48:28.952 ID:EAIlGR+/0
同僚「こんなの無理ですよ!」

社員「時間がなさすぎます! 無謀すぎる!」

上司「関係ない! なんとしてもプロジェクトを成功させるんだ! 会社のために!」

上司「なぁ!?」

部下「はい」



同僚「あの二人ずっとやってるよ……信じられねえ」

社員「付き合ってらんないよ……」

17: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:51:35.260 ID:EAIlGR+/0
上司「まったく情けない奴らだ。終電前に帰ってしまうとは。サラリーマンの風上にもおけん」

上司「だが、我々は違う! 会社のために尽くすぞ!」

部下「はい」

上司「なんとしてもプロジェクトを成功させるんだ!」

部下「もちろんです」

上司(もう深夜になるのに、まるで疲れてないようだ。さすがゾンビ……)

18: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:55:10.528 ID:EAIlGR+/0
チュンチュン…

上司「朝になったな」

部下「そうですね」

上司「徹夜で作業したが、どうだ、疲れたか?」

部下「いえ、疲れていません」

上司「結構。ならば休むことなく、このままプロジェクト成功まで突っ走るぞ!」

部下「分かりました」

…………

……

19: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 18:58:19.615 ID:EAIlGR+/0
しばらくして――

社長「よくやってくれた。プロジェクトは大成功だ!」

上司「ありがとうございます」

社長「これも全て君のおかげだ。これからも頑張ってくれたまえ」

上司「もちろんです! 会社のために尽くします!」

社長「うむうむ、管理職とはそうでなくてはならん。会社に全てを捧げてくれ」

上司(社長直々に褒めてもらえた! ……最高の気分だ!)

21: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:01:28.963 ID:EAIlGR+/0
夏がやってくる。

上司(季節は夏真っ盛り……)

上司(普通の会社であれば、盆休みに入るところだが……)



社長「我が社のモットーは、プライベートも仲良く!」

社長「今年の夏は海水浴に行くぞ!」



上司(毎年この時期、社員旅行がある。実質お盆休みはゼロだ)

上司(もちろん、会社のためならば喜んで行くがね)

22: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:04:08.606 ID:EAIlGR+/0
バスで出発する一行。

ブロロロロ…

社長「じゃあ、歌わせてもらおうかな」

ワーワー…

社長「では……」コホン

上司「おい、盛り上げろ」

部下「分かりました」

23: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:07:14.313 ID:EAIlGR+/0
社長「サラリーマンはぁ~♪ 会社のソルジャァ~♪ 死んでも働けぇ~い♪」

上司「いよっ、社長!」

部下「いいぞーっ!」



同僚「すげーな、あの二人。よくやるよ」

社員「こっちはせっかくの休みを会社行事に潰されて、テンション低いってのに……」

24: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:09:24.768 ID:EAIlGR+/0
ビーチについても――

社長「オイルを塗ってくれんか」

上司「はい」ヌリヌリ

社長「なにか冷たい物を買ってきてくれ」

上司「分かりました」

上司「おい……これで何か飲み物買ってこい」

部下「はい」タタタッ

社長「暑いからあおいでくれ」

上司「すぐあおぎます」パタパタ

25: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:12:38.465 ID:EAIlGR+/0
ザザーン…

社長「だいぶ日が傾いてきたな」

上司「ええ、暗くなってきました。海水浴もそろそろ終わるべきかと」

社長「私は宿に行くから、後片付けをしておいてくれ」

上司「分かりました」

上司「おい、後片付けをするぞ。手伝え」

部下「はい」

ザザーン…

上司「この時間になると、だいぶ潮が満ちてきたな。くれぐれも気をつけろよ」

部下「はい」

上司(といっても、ゾンビは死なないが……どっかに流されても困るからな。海水浴中の事故など会社に傷がつく)

26: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:15:13.784 ID:EAIlGR+/0
上司「ん」

部下「……」セッセッ

上司「波だ! かなり大きいぞ!」

ザバァァァァァン!

上司(部下に波がかかった!)

上司「おい、大丈夫か?」

部下「……はい」ビショ…

上司「そうか、よかった。お前は大切な労働力……」

部下「……」

上司「おい、どうした?」

29: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:18:36.023 ID:EAIlGR+/0
部下「……思い出した」

上司「へ?」

部下「全部思い出したぞ……」

上司「な、何を……?」

部下「俺はあの日……無茶な仕事をさせられて……死んだんだ」

上司「!?」

部下「だけど……あんたに蘇らせられて……今までずっと……駒として……」

上司(自我が戻ってる!? どういうことだ!? 塩なんか浴びせてないのに……あ)

上司(海水か……!)

32: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:21:27.894 ID:EAIlGR+/0
部下「よくも過労死させたな……!」

上司「お、落ちつけ!」

部下「それどころか、死んだ後もこき使いやがって……! 許せねえ!」

上司「待て、話せば分かる!」

部下「ふざけるな! 話すことなんかねえ! 覚悟しろ!」ガシッ

上司「ぐえっ!」

部下「このまま首を絞めてやる……!」グググッ…

上司「ひいっ……!」

33: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:24:19.849 ID:EAIlGR+/0
部下「……」グググッ…

上司「や……めろ……」

部下「こいつ、しぶといな……!」グググッ…

上司「はな……せ……」

部下「まあいい、俺の体は疲れ知らずだ。このまま絞め続けて……」グググググ…

ザザ…

部下「まずい、また波が来る!」

ザバァァァァァァン!

部下「くっ!」

35: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:27:16.722 ID:EAIlGR+/0
部下「……」ビショ…

上司「……」ヌレ…

部下「くそっ、手をはなしちまった。今度こそ……」

上司「……思い出した」

部下「へ?」

上司「今の波で……全て思い出したよ……」

部下「何を思い出したんだ!? 俺を死なせたことか!?」

上司「私も……もう死んでたんだ」

部下「は!?」

36: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:30:36.462 ID:EAIlGR+/0
社長『君んとこの業績はどうなってるのだね!』

上司『しかし……これが精一杯で……。部下も頑張ってはいるのですが……』

社長『頑張ってるゥ? この数字でよくほざけたもんだ! この給料泥棒が!』

社長『いいか、死ぬ気で働け! 働かせろ! 成果を出せない管理職なんていらないんだよ!』

上司『は……い……』

上司『ううっ……!』ドサッ



上司「社長の酷い叱責を受け……過労とストレスで私は倒れたんだ……」

部下「……!」

上司「だが……」

38: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:33:20.180 ID:EAIlGR+/0
社長『よし、これでゾンビ化した』

社長『いいか、お前は死んだんだ。自我を残しつつ、これからは会社のために尽くせ!』

上司『はい……』

社長『これも渡しておこう。“死体をゾンビ化させる薬”だ』

社長『もし、過労死する部下が出たら……これを使ってさらにこき使ってやれ。いいな』

上司『分かりました……』



上司「どうりで、ゾンビ化した君にいくら付き合っても疲れないし、食も細くなってたわけだ」

部下「そんな……! あなたもとっくに死んでたなんて……!」

部下「だけど、思い当たる節はあります。ある時期から急に厳しくなりましたから」

上司「すまんね。私がゾンビ化したせいで、君まで巻き込んでしまって……」

部下「いえ……あなたのせいじゃありませんよ。もう責める気にもなれません」

42: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:35:30.881 ID:EAIlGR+/0
上司「それにしても海水は盲点だった。おそらく社長もそれに気付かず、旅行先を海にしてしまったんだろう」

部下「大量の塩を浴びる機会なんて、そうそうありませんからね」

部下「どうしましょう……?」

上司「決まってる。社長を許すことはできん。君だってそうだろう?」

部下「もちろんです。ということは、このまま二人で乗り込みますか?」

上司「いや……私に考えがある」



………………

…………

……

43: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:38:28.861 ID:EAIlGR+/0
社長「……」グビッ

社長「いいワインだ」

社長(会社の業績は上がり、忠実な部下は増え、こうしてリッチな社員旅行を楽しめる……)

社長(これも全てあの薬を手に入れたおかげだな……)

コンコン…

社長「誰だ?」ガチャッ

上司「私です」

社長「なんだ君か……。用なら明日にしてくれないか」

上司「いえ……夏ならではの催しを思いつきまして、どうしても社長に参加して頂きたいと」

社長「ほう」

社長(もしかして、浴衣の美女でも用意したか? ゾンビにしてはなかなか気がきくじゃないか)

44: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:41:17.580 ID:EAIlGR+/0
社長「で、どんな催しをするんだ?」

上司「肝試しです」

社長「肝試し? なんだ、子供じゃあるまいし……」

上司「いえいえ、きっと楽しめると思いますよ。なにしろ“本物のゾンビ”が出演しますから」

社長「え」

部下「どうも」ヌウッ

ゾロゾロ…

社長「あ……! お前たちは……!」

上司「実はついさっき、我々は自我を取り戻しましてね」

上司「それから、色んな社員に海水を浴びせてみたわけです」

上司「そしたら……まさか、こんなにゾンビ化してる社員がいるとは思いませんでしたよ」

部下「10人近くいますよ。ひどいもんです」

社長「あ……! あ……!」

46: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:43:17.725 ID:EAIlGR+/0
社長「ひっ!」ダッ

会社員A「おっとぉ……」

社長「わわっ!」ダッ

会社員B「逃がしませんよ……」

部下「みんな、例外なくあなたを恨んでますよ」

上司「さ、楽しい楽しい“肝試し”を始めましょうか」

社長「うっ……」

うわあああぁぁぁぁぁぁぁ……!!!



…………

……

47: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:47:07.296 ID:EAIlGR+/0
……

部下「もうすっかり夏も終わりましたね」

上司「ああ、涼しくなってきた」

部下「あれから会社もずいぶんよくなりました」

上司「新しい社長は優秀な人だからな。きっとこれからはもう過労死なんて出さないだろう」

部下「そして、元社長は……」

上司「今もベッドの中だという。我々の肝試しに耐えられず、発狂し、今も病院でうなされてるそうだ」

上司「おそらく……一生あのままだろう」

部下「社長もまた、本物のゾンビみたいになっちゃいましたね」

49: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 19:52:46.167 ID:EAIlGR+/0
部下「これから……どうしましょうか」

上司「焦って決めることはない。会社に残るもよし、嫌な思い出のある会社を去るもよし、だ」

上司「とりあえず、私は会社に残るつもりでいるが。家族もいるし、ゾンビ化したことは表沙汰にしたくない」

部下「そうですね……」

上司「いずれにせよ、これからは会社のためでなく、自分のために生きるべきだ。死んではいるが」

上司「なぁに、前向きに考えよう。どんな人生を歩んだって必ず成功できる!」

上司「なにしろ、我々は疲れもせず、眠らなくてもいい体を手に入れたんだから!」

部下「はいっ!」







― 完 ―

54: 風吹けば名無し 2021/08/14(土) 20:16:23.439 ID:BsgrL6rE0
部下は上司への恨みは消えたのか

引用元: https://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1628932262/